「働き方改革」の一環として、政府が副業を推し進めている昨今。

医療・介護業界でも、以前より働き方が多様化してきました。

YouTuber、オンラインサロン運営、起業…。
はたまた、本業とはまったく関係ないビジネス。

なかには、自分らしく働き、同時に収入を上げるなど、大きく飛躍している人がいます。

しかし一方、あたらしいことに取り組んでは挫折し、また別のことに飛びつく。そんな出口のない迷路をグルグルと回り続けている人もいます。

この2つの道を分ける要因は、いったい何なのでしょうか?

その答えを知るべく、『医療・介護職の新しいキャリア・デザイン戦略』の著者である、国家資格キャリアコンサルタントで作業療法士の細川寛将さん@hosokawa777)に、お話を伺ってきました。

<聞き手=福井龍太郎(Archリハビリテーション代表)>

プロフィール

細川 寛将(ほそかわ・ひろまさ)さん

avatar
作業療法士/保健学修士/国家資格キャリアコンサルタント2009年大学卒業後、作業療法士として回復期病棟にてリハビリ業務に従事。その後、大学院を経て2012年に株式会社メディカルエージェンシーを創業(取締役として参画)。PTOTSTの働き方・学び方メディア『POST』の副編集長として従事し、医療・介護職のキャリアについて学びを深める。現在は、医療法人にて高齢者住宅の施設長、株式会社クリエイターズ取締役、株式会社カイテクアドバイザーを含め、複数法人の役員やアドバイザーとして広く携わり「医療介護系複業家」としての顔を持つ。医療・介護職の複業を推奨し、法人だけでなく個人に対してのキャリアコーチングを精力的に行っている。

多くの人が見落としがちの「キャリアの本質」とは?

avatar
福井
以前よりも、医療・介護業界では働き方が多様化してきたように思います。

この現状を、細川さんからみてどのように感じていますか?
avatar
細川さん
いろいろあるのですが、とくに感じるのは、医療・介護業界は「キャリアに対しての知識・意識が乏しい」という危機感です。
avatar
福井
危機感ですか?
avatar
細川さん
はい。働き方の多様化って聞くと「自由な働き方」みたいな感じで聞こえがいいのですが、裏を返せば “自己責任” が強くなるんですね。

要は、自分自身で尻拭いをしていかないといけない。

その手前、本来であればキャリアのリテラシーを高めていく必要があるにも関わらず、多くの方はいまだにハウツーを追い求めているんですよ。
avatar
福井
「ハウツーを追い求める」とは、具体的にどういうことですか?
avatar
細川さん
「何をしたいか?」「どうやってやればいいか?」というような、キャリアにおける枝葉末節部分ばかりを考えていることです。
avatar
福井
「何をしたいか?」ということは、キャリアを考える上ではじめにぶつかる壁のような気がします。

それよりも大切なことって、いったい何なんですか?
avatar
細川さん
もちろん「何をやりたいか」を考えることも大切です。

しかし、もっと本質的な部分は「“なぜ”やりたいのか?」ということ。

これを考えておかないと、途中で「あれ? なんでこんなことやってるんだっけ?」と自分を見失う可能性があります。
avatar
福井
なるほど…。
avatar
細川さん
わたしが作業療法士になったのは10年以上前ですが、その傾向は当時とほとんど変わっていません。

わたしが医療・介護職向けにキャリアコンサルをはじめたのも「このままじゃキャリアで悩む人が増えてしまう」という危機感を抱いたことがキッカケなんです。

【成長しない人の特徴:その1】 成果を意識していない

avatar
福井
これまで多くの医療・介護職の方々のキャリアを支援されてきたなかで、「飛躍する人」もいれば、かたや「成長しない人」もみてきたと思います。

この2パターンの方々の違いに、なにか特徴はありますか?
avatar
細川さん
まず、「成長しない人」の特徴をあげると、“成果を意識していない”ということですね。

より具体的にいうと、「成果」と「満足度」が混同している人です。
avatar
福井
どういうことですか?
avatar
細川さん
「自分は成果を出している!」と思っていても、実は“満足感”だけを味わっている状態の人のことをいいます。

たとえば、セミナーに行ったという事実だけで満足する人がそう。

さらにマズい状態が、職場の同期や先輩から「休みの日にセミナーに参加するなんてエライね」という言葉だけで満足しているケースですね。
avatar
福井
あるあるですよね。ぼくの知り合いにもいます…(苦笑)
avatar
細川さん
より高いステージに行ける人たちは「頑張ってる、頑張ってない」という “自己満足” なんかで自身の成長をはかっていません。

「成果を出せたか、出せなかったか」を重要視しています。
avatar
福井
なるほど。
医療・介護職の方々は、なぜ成果を出すことに意識が向きにくい傾向にあると思いますか?
avatar
細川さん
原因はシンプルです。

医療・介護職は「だれ」が 「なに」をやっても職種内で成果が一定である“保険”というプラットフォームにいるからだと思います。

それがすべてじゃないですかね。
avatar
福井
それでは、いまの環境で成果を意識するためには、どういった働き方をすればいいのでしょうか?
avatar
細川さん
主体的に行動することですね。

たとえば、与えられた仕事だけでなく、自ら課題をみつけて、職場に対して業務改善を提案していく。

あとは、職場の了解が得られるなら、個人事業でいろいろとやってみるのも良い経験になりますよ。

【成長しない人の特徴:その2】 投資意識と回収意識が低い

avatar
福井
そのほかに、成長しない人の特徴はありますか?
avatar
細川さん
“投資意識と回収意識が低い人”です。

自己投資の意識が低い、ということについてはみなさんイメージしやすいと思います。

たとえば、「なにもしなくても、あと数年やり過ごせば技師長になって給料が上がるかな」という自己投資をまったくしない人。

かたや、「将来的には病院経営にたずさわりたいから、数年間収入が下がってでも、MBA(経営学修士)を取得しにいこう!」と積極的に自己投資していく人。

当然ですが、後者の方が将来的にキャリアの選択肢や、収入に大きな差が出てくる可能性が高いということはいうまでもありません。
avatar
福井
若いうちから将来のために自己投資をしていくか、していないかで人生が大きく変わっていきそうですよね。
avatar
細川さん
そしてもうひとつ、これは意外と意識してる人が少ないのですが、自己投資はしているけど“回収意識”が低いというパターン。

先ほどの例でいうと、セミナーには参加しているけど、周りからの「がんばってるね」という賛辞だけで満足している人ですね。

これは投資ではなく“投棄”です。

言い方は悪いですが、お金をドブに捨てているようなもの。

そのため、「投資した分、しっかりと回収できているか?ということも、自分に問いかけていく必要があります。
avatar
福井
ちなみに回収というと、どんなことを指しますか?
avatar
細川さん
一番わかりやすい例でいうと、「収入」ですよね。数値化できるので。

あとは、「昇進」だったり「以前よりも治療成果が上がった」などですかね。

あと、わたしの場合は「やりたいことを主導権にぎって、主体的に意思決定できるか?」ということも、ひとつの投資対効果として考えています。

【成長しない人の特徴:その3】 短期的な思考

avatar
細川さん
あと、成長しない人の特徴として、“短期的な思考しか持っていないこと”もあげられます。

要は、目の前のことばかりに集中していて、まわりがみえていない状態です。

そうすると、目の前の悩みに振り回されて、場当たり的な行動を取りがちになります。
avatar
福井
たとえば「ラクしてすぐにお金がほしい」という理由で、カンタンに儲かる系のビジネスに飛びつく方もそうですか?
avatar
細川さん
そうですね。そういう人に限って、さまざまなことに手を出してはやめて、またあたらしいノウハウを追い求める。

そんな出口がない迷路をグルグルと回っているケースが多いですね。

そうなると、毎回ゼロからのスタートなので、なかなかキャリアが積み上がっていかないんですよ。

キャリア人生のすべては「自己理解」からはじまる

avatar
福井
なるほど…。
短期的な思考におちいってしまう理由はなぜだと分析していますか?
avatar
細川さん
それはおそらく “自己理解” が足りていないからだと思っています。

つまり、自分のことをしっかりと理解しているか?ということです。

自分が大切にしている価値観がわかっていないから、物事の決断や判断にブレが生じてしまうのだと思います。
avatar
福井
だから「すぐ稼げそうな仕事」という短期的なメリットにつられて物事を選択してしまうことがあるんですね。

その結果、「やっぱり合わないからやめよう」と挫折しちゃう。
avatar
細川さん
そうなんです。

さらに、自分の大切なものを見失っていると、自分自身の評価を傷つける行動をとる可能性もあります。

その結果、最悪、医療・介護職としての人生が絶たれてしまうこともあるかもしれません。

価値観という軸があれば、仮にまわりから怪しい儲け話を持ちかけられても「それって本当に自分がやりたいことなのか?」と冷静に判断することができます。
avatar
福井
自己理解って大切なんですね…
avatar
細川さん
キャリア人生のすべては「自己理解からはじまる」といっても過言ではありません。

わたしのまわりでも、大きく飛躍している方は自己理解力がとても高いです。
avatar
福井
そうなんですね。
では、自分のことを理解するためには、どうすればいいんですか?
avatar
細川さん
自分が大切にしている“価値観”を洗い出すことですね。

たとえば、「自分が大切にしていること」「譲れないこと」「やりたいこと」などを紙に書き出してみる。

そうやって、自分のなかのコアな部分を言語化することが重要です。

自分の「価値観」と「強み」を知るための方法とは?

avatar
福井
「紙に書き出してみる」とおっしゃいましたが、具体的なやり方ってあるんですか?
avatar
細川さん
わたしの著書のなかからひとつご紹介すると『9マンダラシート』というワークがあります。

このワークはひとりでもカンタンにできるのでオススメです。

では、早速やり方をお伝えしていきますが、まずは9マスの紙を準備してください。
9マンダラシート
avatar
細川さん
最初に、9マスの中心に自分の名前を書きます。

そして残りの8マスに、“自分の価値観”を自由に書き出しましょう。

たとえば、「自分がこれまで大切にしてきた考え」「両親や家族からよく言われたこと」「自分の信念」などです。

時間はだいたい【3分】ほどで、無理にすべてを埋める必要はありません。

このワークの目的は、自身が大切にしている価値観を俯瞰すること。

さらに、書き出した価値観のなかから、自分の強みの源泉をみつけることもできます。
avatar
福井
実際に書き出すことで、より価値観が顕在化しそうですね。
avatar
細川さん
ちなみに、自分の強みの源泉を見つける方法として、『ストレングスファインダー』もオススメですね。

これは、ウェブ上で100個以上の質問に答えていくことで、自分の資質と強みを客観的な指標として出してくれるサービスです。

そして、私も一部関わらせていただいている『ポテクト』もオススメですね。

自分の「価値観」や「強みの源泉」の輪郭をより明確にしたい方は、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

“社会に対する課題意識”がある人は伸びやすい

avatar
福井
「自己理解」が大切なことはよくわかりました。

そのほかに、飛躍する人の特徴ってありますか?
avatar
細川さん
“社会に対する課題意識”を持っている人です。

わたしと同世代で、年収1,000万円以上かせいでいるセラピストは、とにかく社会や業界に対する課題意識が高いですね。
avatar
福井
そうなんですね…!
avatar
細川さん
「自分たちが何をしたら世の中がもっとよくなるんだろう?」
「自分たちの業界が良くなるためにはどうすればいいんだろう?」

このように、目の前のことだけじゃなく、社会全体まで視野を広げて物事を考えています。

そういった方々はものすごく成長が早く、かつ大きく飛躍していますね。

居酒屋での戯言、批判で終わらせない

avatar
細川さん
とはいえ、課題意識を持つだけでもダメなんです。

課題を抽出したら、自分たちにできることを洗い出して、実行プランまで落とし込むことが重要です。

実行プランを立てたら、あとは実際に行動にうつしてPDCAをたくさん回していくだけです。
avatar
福井
結局のところ、どれだけ綿密に計画を立てても、行動しないと意味ないですもんね。
avatar
細川さん
「PT・OT・STに未来はない」
「不景気なのは社会の構造が悪いからだ」

このような、居酒屋でしているような戯言、批判だけで終わっているようでは、自分の手でより良い未来をつかむことなんてできません。

とにかく「課題意識を持って行動」。それに尽きます。

未来に可能性を感じている人とつながる

avatar
福井
そのほか、細川さんがキャリアを形成するうえで意識していることはありますか?
avatar
細川さん
“未来に可能性を感じている人とつながること”ですね。

そして、できればそういった方々と一緒にはたらくのもオススメです。

わたしの場合だと、『株式会社メディカルエージェンシー』の代表取締役・輪違さんと、リハビリメディア『POST』の編集長・今井さんとの出会いが大きかったですね。
avatar
福井
細川さんと輪違さん、今井さんの3人で『POST』を立ち上げられたんですよね。
avatar
細川さん
そうです。
POST』は、わたしが27歳のときに彼ら2人といっしょに始めたメディアです。

しかし立ち上げ当時、わたしは結婚などで忙しい時期だったんですね。

ただ、「彼らと一緒なら未来を創っていける」と確信したため参画しました。

いまでもそのときの選択は間違っていなかったと思います。
avatar
福井
何をするかも大事ですけど、“誰とするか”ということもとても大切なんですね。
avatar
細川さん
振り返ると、輪違さんと今井さんと働けた経験が、現在の自分のアイデンティティを形成しているといっても過言ではありません。

“グリット”を持って行動してほしい

avatar
福井
最後に、キャリアで悩んでいる方にメッセージをお願いします。
avatar
細川さん
世の中には「PT・OT・STには未来がない」と嘆いている人たちがいます。

しかしわたしは逆だと思っていて、「PT・OT・STにはものすごく可能性がある」と感じています。

なぜなら、マーケットに対して価値提供できるような人材になれば、可能性は大きく広がる職種だからです。

とはいえ、たとえば「就職はとりあえず病院かな」というようなステレオタイプの思考だと、ジリ貧となって、どんどん厳しくなっていくのは事実です。あおるわけではないですが。

そのため、目先のことだけを考えず、いろんなことを自分自身で考えられる思考力も養ってもらえたらと思います。

そして最後にお伝えしたいこと。

「あたらしい一歩を踏み出そう」もしくは「あたらしいフィールドに移ろう」と決心した方は、グリット(やり抜く力)を持って行動してほしいと願っております。

今回の話が、キャリアで悩む方々の一助になれば幸いです。

編集後記

わたしもキャリアで悩んでいる方のお話を聞く機会があるのですが、なかでもよく聞くことが「自分がなにをやりたいのか分からない」です。

その解決方法のひとつが、今回のインタビューでも細川さんがおっしゃっていた“自己理解”だと思います。

まずは一度、自分の「価値観」や「能力」などを棚卸しして、その上でどのようなキャリアを積んでいくかを戦略的に考えてみる時間を作ってみてはいかがでしょうか?

また、細川さんと三好さん(@takayukimiyosh1)の共著である『医療・介護職の新しいキャリア・デザイン戦略 〜未来は、自分で切り拓く〜』では、さらに詳しくキャリア戦略について書かれています。

興味のある方はぜひ一度手にとってみてください。

医療・介護職の新しいキャリア・デザイン戦略~未来は、自分で切り拓く~

さらに、細川さんから直接キャリアのアドバイスをもらえる『個別キャリアエージェント』というサービスもあります。

現在60名ほど参加されており、今年の4月から新たに【10名】のみ募集するとのことです。

「もっと自分らしく働きたい!」「自分の望むキャリアを歩みたい!」という方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?

それでは、今回の記事がキャリアで悩んでいる方々のお役に立つことができれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。